雨上がりのアスファルト


ぽっかりと穴が空いたように

口を開けた水溜まり



そこに映る景色は こっちとは別のようで

別の世界へと繋がっているような気がした













水溜まりの中の世界














そっと覗き込んだ。

特に意味は無かったけれど。


ただそこに在る世界は、こっちと違ってきれいに見えたの。







「なにしてんの。水溜まり見つめて。」


私の行動が奇怪に思えたのだろう。

彼は、私と同じように水溜まりの前でしゃがんだ。





「水溜まりがきれいだと思って。」

「ふーん。」




水溜まりに映る彼と私。

水溜まりに映る空と雲。


同じなのに、同じじゃない。

ああ。まるで。




「なんだか、別の世界に繋がっている気がしない?」

「いや、全然。」


「あ、そう。」

私は短くそう答えると、しゃがんでいて落ちていた腰を上げる。

「どっこいしょ。」

という言葉も付けて。







「年寄りくさ。」

「うるさいわね。」



隣にいる口が悪いのは、放っておいて。

今度は、立った体勢で水溜まりを見つめる。









水溜まりに映る私。


これは、本当に私なのだろうか。

もしかしたら、向こうの世界の私だったりして。






「ねぇ、この水溜まりに飛び込んだら、ワープ出来るかしら?」

「・・・・・・。」

「『また変な事言い出した』とか思ったでしょ、今。」

「大当たり。」


彼は、笑顔で指をパチンと鳴らす。

そして、また私と同じようにしゃがむのを止め、立ち上がった。






ああそう。

じゃあそれなら...。


「類の言ったとおり、今から私ワープするから。」

さっき見下ろしていた彼を、今度は見上げながら堂々と言ってやった。





「ふーん。」

「もう帰ってこれないかも。」

「へー。」



私の言葉をちゃんと聞いているのかしら。

そっけない答えが返ってきた。


見てらっしゃい。

今、貴方の目の前でワープしてやるんだから。









彼から水溜まりへと視線を落とした。

風に吹かれ、ゆらゆらと揺れる水溜まりの中の世界。




決心したように、私は大きく息を吸うと、水溜まりにジャンプをした。

少しの緊張のせいか、きゅっと瞳を閉じて。








ああ。私はこれで水溜まりの世界へとワープ・・。






























ワープ・・・したはずだった。


けれど今の私に残るのは、右腕を捕まれた感覚だけ。

目をそっと開けてみると、私の右腕を掴んだ彼が見えた。







「ワープしたら会えなくなるんでしょ?」

私の右腕を掴んだまま、彼はにこりとだけ笑い、そう言った。


「そうよ。」

「そっか。」

「・・・・・・・。」

「・・・・・・・。」


「ふーん。類は、私に会えなくなるのが寂しいんだ。」

「別に。」

「痩せ我慢しちゃって。」

「してない。」








そうは言うものの、私の腕を離さない彼。

ぶっきらぼうな彼の言動に少し頬を緩ませながら



ワープはやめようっと。



そう思った。







05/9/23

+++++++++++++

水溜まりの話。

水溜まりを見つめながら、ふと思ったので書いてみました。


ワープ・・・・とまでは無理かも知れませんが、なんだか別の世界があるような気がします。